サドルバックは100周年モデルのラインがクリアーコートされているので削り落としてしまいましょう。
よく目を凝らすとHARLEY-DAVIDSONと小さく印字されています。ブランド品の主張ですね。
リアフェンダーとサドルバックの間を埋めるFRP製品も手直しが必要です。
こちらも無数のクラックと取り付けブラケットが剥がれかかっているので修正/補強を行います。
こちらは通常のFRP修正で問題ありませんが、オーナーさんがフィッティングの為ヒートドライヤーで反りを調整済みなので
その反り具合を作業前に記録しておきます。FRPは硬化時に熱を発するので反りの戻りを抑える為に固定して乾燥させるのです。
サドルバックの取り付け部周辺には、裏まで達するクラックが数箇所見受けられるのでこちらも修理します。
ところがこの素材、樹脂なのですが熱可逆性(熱に溶ける性質)が無く、FRP樹脂の食い付きもあまり良くありません。
少し前のBMWのカウリングも同じ様な性質の樹脂で修正に手を焼いた経験があります。
今回はその時の応用で作業を進めました。何事も経験ですね。
Fフェンダーやサドルバックなどその他のパーツも搬入され、全てのパーツが揃いました。
各修正や加工作業が終了し下地塗装が完了した所です、乾燥室でカリッと乾かします。
その後もさらに細かい仕事が続きます。
なので余計な部分はサンダーで削り落とします。
僕は過去数回鉄粉が眼球に刺さって眼科のお世話になっているので、今は十二分に安全に配慮して作業しています。
意識がはっきりしている中、眼球からカリカリと音をさせて鉄粉を取り除いてもらうのは
貧血になる位具合の悪い行為なので。。。

板金の最終工程、モールディングに入ります。
タンク本来の流麗な造形やラインを最大限に引き立てるよう、
見た目はもちろん機能性も加味した材料で形を整えていきます。
金属部分の処理が終わったら、サンドブラストを施します。
まずは、自分とオーナーさんの思い描く仕上がりに必要な修正や加工を施していきます。
左右のストレッチ部の長さも若干ずれていてるとオーナーさんから報告を受けているので、対応を考えます。
ガソリン漏れ(滲み)も多数見受けられるので、この時点で確認できる箇所は全て処理を施します。
最終的な質感を高く求めるのであれば、この時点での様々な問題を処理する必要があります。
今回はパーツ持ち込みでのオーダーで、まず最初に持ち込まれたのが社外品のストレッチタンクです。
すでに若干の加工が施されていますが、基本的には新品でこの状態です。
社外品タンク(特に外国製)でいつも思うのは、塗装作業に入るまでに多くの工程が必要だという事です。
溶接焦げ/錆は当然の事ながら、製造過程上の処理が甘く表面の歪みやガソリン漏れ等、ボルトオンとは程遠い事がほとんどです。
仮にこのまま塗装工程に進めば悲惨な結果が待っているのは言うまでもありません。
ハーレーダビッドソンのツーリングファミリー、ロードキングのペイントご紹介例。

ある意味、最もハーレーらしいたたずまいのツーリングファミリー、
その中でも比較的にカスタムベースとして選ばれる事の多いロードキングが今回の依頼車両です。

ロードキングと言うモデル名も只者ではありませんが、決して名前負けしていない完成した姿に
1ランク上の大人の遊び方を教えてもらった気がします。
【HARLEY-DAVIDSON FLHR ROAD KING】
もう一つ、タンクと同時期に持ち込まれたのがリアフェンダー。
こちらも加工済みの状態で持ち込まれたのですが、やはりこのままでは塗装はできません。
裏側はブラケットや溶接ビードでガギガギでこのままでは泥や湿気が溜まりやすく腐りを誘発しそうです。
パッと見、悪くない表側もフェンダーとテールランプの取り付けエッジが曖昧なので、
取り付け位置をけがいてビシっと付くようにします。
各修正等が終わったら下地塗装を施して、乾燥室で焼き上げます。
加工修正等の作業が終わり、全てのパーツがペイントベースとしての状態になりました。
ダメージやデカールのクリアーコート、デザイン塗り分け等の無い
純正塗膜パーツは、
そのままペイントベースとして利用する事ができます(この中ではFフェンダー、サドルバックの蓋がそれに当たります)。
下地の研磨作業に取り掛かります。
一つ一つの仕上がりをチェックしながら丁寧な作業で進めていきます。
今回はデザイン系の塗り分けがオーダーなので、黙々と手間の掛かるペイント作業を進めていきます。
基本的なデザインやペイント色はオーナーさんからご指定を頂いていてストレッチタンク等に合わせて、
最終的なアレンジを僕にお任せと言うオーダー内容でお請けしています。

幾重にもレイヤーを重ねたペイント作業も無事終了!仕上げのクリアーをテカッっと塗り上げて乾燥室へ。
ポリッシャーでギュンギュン磨き上げます。
そして全ての作業が無事終了!
不鮮明なライン造形や歪んだ面、荒い溶接のビードに左右不均等な長さ等。その他色々と問題が有った
ストレッチタンクも満足のいく仕上がりになりました。真横から見た時タンク底面のラインが弓なりになっている
ティアドロップ型のタンクなので、ここの部分が最大限に美しく見える様に再造形を施し、
それに合わせてロゴ文字も若干弓なりに入れてあります。
曖昧だったテールランプの取り付けラインもキッチリし、泥や湿気が溜まりやすそうだった
フェンダー裏側もある程度スムースに仕上げて裏吹きしてあります。普段は目の届かない箇所ですが、
こういった所にも気を配る事で結果的には長い期間美しさを保つ事に繋がるのだと考えます。
ペイントの詳細は、
キャンディーパープルとホワイトパールでフレアーを塗り分け、色の境界とフレアーにそれぞれ濃さの違うシャドーをスプレーアウトし、筆でイエローのラインを入れてあります。
後日、爆音と共に現れたその姿に一瞬言葉を失うわけです。
いや~凄いですねぇ!ペイント?いえいえそれ以外のカスタムも半端じゃないですよ。
何処かのショー会場ならば納得ですが、ストリートユースでこのコンディションは滅多にお目に掛かれませんよね。
しかもこのオーナーさん、できるところは自分でやる派で、カスタムパーツのセットアップはもちろん
6速ミッションの組み換え等もご自身で行う、バックヤードビルダー的一面も持ち合わせているのです。
見る人が見ればおわかりだと思いますが、ただカスタムパーツを取り付けただけではこのシルエットは生れません。
高価なパーツに手を加えリクロームを施し、長い年月プランを構築した結果がこの姿なのです。
確認しておきますが、この車両ショップのデモカーではなく、いちオーナー車両ですよ。
今回のペイントに関しては、打ち合せの段階で自分の中ではある程度イメージが固まっていて、
”気品ある派手さ”を意識しながら下地処理/色作り/塗り分け等に取り組みました。

こういった仕事の場合は特に、作業者である僕とオーナーさんとのイメージのすり合わせが重要で
センスやテクニックの問題以前に、両者の信頼関係こそが満足いく仕上がりへの第一歩だと考えています。

作業期間/料金/労力、全てにおいて通常の色替えペイントの数倍のエネルギーが必要となるこういった仕事は
当社では、年に数台しかお請けする事ができないスペシャルワークとして位置づけています。